本年度に行なった研究の概要と得られた知見は、以下のとおりである。 本年度は本研究の最終年度にあたるため、まちづくりNPOの自立に関わる事例の補充調査と理論化を行ない、報告書を作成した。 補充調査としては、イギリスのまちづくりトラストの全国組織であるDTAの全国集会に出席し、組織間のネットワーク形成の実態を探った。これらの調査とロンドン都心の2つのまちづくりトラストである、コイン・ストリート地区の事業体(CSCB)と、東ロンドンの環境トラストの補充調査を加え、自立と連携に関する理論的な分析を行なった。 社会的使命を明確にしたボランティア団体が社会的企業へ転換する過程で財政的な自立を獲得し、さらに専門知識や情報などを他の組織と交換することによって組織間の連携が強化されている。連携がパートナーシップ、リンケージ、ネットワークという内容をもっていることを明らかにし、とくにそれらが重層的で多元的な関係を形成していることを指摘した。さらにこの重層的で多元的な諸組織のつながりが、まちづくりNPOの組織的自立を可能にし、地域社会での資源配分におけるガバナンスを形成していることがわかった。 昨年度の研究成果で明らかになったアメリカの「草の根民主的な成長管理型」のガバナンスに対し、イギリスは「パートナーシップによるサステイナブル・シティ型」のガバナンスの傾向がみられる。イギリスの市民セクターの成長は、政府のパートナーシップ政策による支援制度が大きく寄与していた。ボランタリー組織の組織的自立は、制度的な支援が必須であり、ガバナンスを導く政府の分権化政策の質が問われるといえよう。これら欧米型のガバナンスに対し日本のまちづくりNPOは、三島グラウンドワーク、湯布院や川越市の先進的な内発的まちづくりや、名古屋市の障害者団体「わっぱの会」などの調査から、「行政主導の成長管理型」のまちづくりであることが指摘された。日本の都市開発におけるまちづくりNPO・NGOが福祉や環境をテーマにしながら、公的セクターや営利セクターではできない新たな活動領域を担っているが、地域社会でガバナンスの主体となるには、分権化政策のあり方や市民セクターを支援する制度などに大きな課題があることが明らかになった。
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