研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、1.まちづくりNPO・NGOが社会的使命を持続させる事業経営の可能性、2.行政、地域住民組織、民間企業などの連携のあり方、3.市民セクターが提起する公共性の意味を明らかにすることであった。これらをおもに欧米と日本のまちづくり団体の事例調査を比較検討するなかで分析した。研究期間の最終年度である本年度は、イギリスと日本のまちづくり団体の補充調査と理論的なまとめを中心に行なった。そして、調査協力者らとの共同討議を交えながら、地域的な特性によってかなり複雑な様相を呈しているまちづくり団体の比較分析の視点と理論的な抽象化を試みた。得られた知見は、イギリスにおけるまちづくりNPOの「自立」という意味が個人から組織、地域コミュニティのエンパワーメントに関わる概念であり、個人の自立を支えるひとつの方法が社会的起業家の育成、組織の自立を可能にする条件がコミュニティ企業や社会的企業の設立であること、そして地域コミュニティの自立が、地域の内発的発展と深く関わり、地域再生を担う諸集団の連携によるものであることが明らかになった。こうした個人から地域コミュニティにおよぶ自立の実現を社会的使命にするのがまちづくりNPO・NGOであった。そしてまちづくりNPO・NGOが、市民セクターとしてひとつの社会的勢力となり、地域社会の政治に参加する地域ガバナンスを実現していることが重要であった。これに比較して、旧本のまちづくりNPO・NGOは、組織運営や連携のあり方において市民セクターを形成する手法を確立しているとは言いがたい。組織化が未成熟であることや政府の支援政策に一貫性がなく不十分であることなどの要因から、欧米とはかなり異なる視点で検討する必要に迫られた。まちづくりにおける市民団体と政府間の関係については、とくに欧米がパートナーシップ政策のもとで契約型の関係を築くのに対し、日本ではインフォーマルな社会関係が大きく影響していた。今後に残された課題としては、日本の市民セクターの自立と地域コミュニティにおけるガバナンスの成立を、欧米とは異なる原理、契約的な団体間連携だけでなく、インフォーマルな連携やより個人レベルのつながりに着目した連携のあり方を分析し、国際比較の理論化を深めることである。
すべて 2005
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Kinjo Gakuin Daigaku Ronsyu, Studies in Social Sciences VoL1 No.1.2