研究課題
基盤研究(C)
本研究は、計画経済体制下の「職業分配」制度から市場化経済への転換に伴う「自主的職業選択」制度へと就職制度が大きく変動した現代中国において、高学歴者の職業観および職業倫理はどのように構築されつつあるかを検証するものである。尾高邦雄が『職業社会学』で提示した「職業の三要素」を分析枠組みに用い、職業観の形成と政治イデオロギーの問題を変数として組み込みながら、高学歴者の職業観・職業倫理について基礎的な検討を行なった。研究の全過程を通じて、上海財経済大学人文学院経済社会学部副教授、同大経済・社会発展研究センター主任の陸緋雲博士を海外共同研究者として迎え、上海市内で実施した調査において主要な役割を担っていただいた。その結果、本研究成果報告書には、研究期間終了直前の2006年12月23日に上海財経大学で開催した成果報告会で発表された論文・ノート計5本(抄訳・全訳を含む)を中心に、計6本の論文・ノートを収録した。本研究により得られた知見は次のとおりである。まず、調査対象は職業三要素のうち「生計の維持」「能力の発揮」を重視し、「社会的役割の完遂・社会への貢献」の意識は明確でない。これに替わる要素として「発展」「成長」への志向が目立つが、これらの概念は主に個人にとってのそれを意味しており、職業観の個人主義的側面を傍証している。また、自分の従事する仕事に愛着を持ち職務に全力で取り組む、ある種の職業道徳を意味する「敬業」という概念に着目すると、調査対象の「敬業」概念に対する解釈は、個人の主体性を重視し、かつ、「敬業」精神の原初的・理念的動機と功利的動機の間に区分を設けない傾向にあった。これは、政治思想教育が強調する「個人主義」対「国家の重視」という二項対立的イデオロギーとは相容れないものであり、旧来のイデオロギー教育に依拠した「敬業」精神の浸透が難しいことを示唆する。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
金城学院大学論集(社会科学編) 第2巻第1号
ページ: 67-80
Kinjo Gakuin Daigaku Ronshu : Studies in Social Sciences vol.2, No.1