共編著『アイデンティティと共同性の再構築』を出版して、そのなかでふたつの章を担当した。序章「激動期におけるアイデンティティと共同性」では、近代社会と「アイデンティティ」の問題の関係について概観したあと、とりわけ「記憶」や「語り」というものがアイデンティティ形成にどのように関わるかを考察した。さらに、今日におけるアイデンティティの問題を踏まえた共同性のあり方はどのようなものかを検討した。とりわけ多様なアイデンティティに対する寛容性をもった共同性のあり方がこんにち必要であることがわかった。 第7章「記憶の場としての「ライヒスターク」----統一ドイツのナショナル・アイデンティティをめぐって」では、まず統一後に首都がボンからベルリンに移転した際、それぞれの都市に対していかなるイメージがもたれていたのかを概観した。そのうえで、統一前の西ドイツ国会議事堂と対比しながら、新国会議事堂ライヒスターク)に対する政治家や知識人の捉え方をまとめた。また、クリストとジャンヌ=クロードの「ライヒスタークを梱包する」という芸術パフォーマンスをめぐる議論や、ノーマン・フォスターによって設計されたライヒスタークの改築(とりわけドームの修復)をめぐって政治家や知識人たちがおこなった議論をまとめた。そのような一連の議論から出てくるライヒスタークについての各人のイメージは、まさに統一ドイツの国民国家をかつてのドイツ帝国と連続的なものとして自己認識し、再構築しようとするかどうか、それともそのようなナショナルな伝統から離れて統一ドイツを構築しようとするか、という立場に関係していることがわかった。
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