統一から十年以上を経て、ドイツ社会に暮らす人びとの集合的な自己理解を明らかにし、EU統合という外的状況と、移民のさらなる増大という内的状況に直面してドイツが今後どのように政治的舵取りをするかに関して考察した。そのために、首都ベルリンを中心として、統一ドイツの建築物やモニュメントの建立状況を調査しながら、ドイツ人のナショナル・アイデンティティの意識について分析した。 とりわけ本年度は、第2次世界大戦後に東欧・旧ソ連から強制移住させられたドイツ人移民たちが、ドイツに帰還していかに自分たちのアイデンティティを形成しているのかを対象とした。その結果、彼らは近代ドイツの国民国家成立のはるか以前からそれらの地域に移民したという歴史を持ち、にもかかわらず強制移住させられたことの対して、戦後ドイツ社会で同郷人会を形成し、元の居住地域への気持ちをあらわすモニュメントを各地に建立するなどして、自分たちの存在の意味づけしていることがわかった。 他方で強制移住という現象自体に関しても考察した。その結果、それは近代のナショナリズムと関係しており、「国民」を同じ民族によって統一しようという要請から実行され、二十世紀になって広くヨーロッパで見られるものであること、また東欧でのナチスによる強制移住にもつながっていることが明らかとなった。 彼ら帰還したドイツ人移民は第二次大戦後のドイツ社会では長らく公の場では取り上げられなかったが、統一後においてドイツの世論で注目され、いまや学問的研究も広がってきている。ただし、そのことがドイツ人のナショナリズムの増大と関係しているとは必ずしも断定できず、むしろヨーロッパのあらゆる国で見られた「強制移住」という問題そのものへの関心の増大とも受け取れる。
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