当年度は研究期間の最終年度にあたり、これまでの実証研究を踏まえて、いくらかの補充調査研究を実施するとともに、最終的な研究成果報告書の作成に当たった。 第2年度(昨年度)より、主たる研究フィールドを、十数年前に細川護煕と鈴木健二という2人の希有なリーダーのもとで全国的にも注目される地域文化振興政策を展開した熊本県に絞り込み、その後の文化行政の継承と断絶についての検証作業を、とくに元気な老人たちの参加と関与が著しかった、同県(旧)波野村、(旧)清和村、(旧)牛深市の事例に則しておこなった。それぞれ、老人たちが主要な担い手(のひとつ)となって受け継がれてきた、「神楽」、「文楽」「民謡/民踊」という地域伝統文化を核にした「むらおこし」によって注目されてきた地域である。 こうした熊本の地域社会と老人たちの関わりは、「地方」がおかれている厳しい時代背景のもとでの「地域伝統文化」の再発見と再評価、及び、それにともなう地域社会の「誇り」の回復と「経済」の再浮揚への期待という共通性を出発点にしながらも、それぞれに固有の展開を示している。研究成果報告書にはそれぞれの事例報告を収めたが、それらは、おのずから当初の世間の注目から十数年の経緯と現在の、きわめて興味深い比較研究の素材を提供している。 他方では、限られた地域社会の調査研究から得られる資料と知見の偏りを緩和するため、岐阜県ひるが野(郡上市)等での地域文化と老人たちの関わりについての現地調査を実施し、また中国福建省在住の中国人研究者との情報交換も行った。これらの事例は、高齢化の進む地域社会・文化における老人たち(の力)の位置づけについての展望にふくらみを与えている。
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