私たちは、高齢社会の本格的な到来を見据え、地域文化の重要な担い手という老人たちの位置ないし役割に注目して、ともすれば暗くて鬱陶しい高齢社会のイメージに代わる、「明るく豊かな長寿社会」についての可能性を探った。その基本的な視点は、老人像を画一的なパターンに押し込めないことと、具体的な老人たちの生活に学ぶということである。具体的な老人たちの「生」はそれぞれに個性的であり、その「元気」のあり様は多彩である。 個別的には、岐阜県郡上市、熊本県山鹿市、同牛深市、佐賀県唐津市などで活躍する「元気な老人」たちの実態とその地域文化的な背景を実証的に調べた。特に、今や熊本県山鹿市の「まちづくり」のシンボル的存在になっている古い芝居小屋「八千代座」の復興にあたって大きな役割を果たした老人たちの活躍については、紙面を費やして詳細に報告した。山鹿の老人たちは、地域社会への愛着と地域文化への誇りをバックボーンに、いっときは忘れ去られ、朽ち果てようとしていた古い芝居小屋の復興運動を精力的に展開し、その保存と復興と活用に多大な功績を残した。 山鹿の老人たちが、地域社会に愛着と誇りをもちながら、むしろ地域社会の常識にとらわれずにそれに異議を唱え、撹乱し、ひいては、その異議申し立てと撹乱がひるがえって地域社会を元気づけていくプロセスには、目を見張るものがあった。また、この活動を通して、地域文化の再興と地域活性化の起爆剤となった老人たちに若者たちが感謝と敬意を表し、老人たちの思いと意志を受け継こうとする若者たちに老人たちが期待と信頼を語る姿には感動を誘うものがあった。 しかし、もちろん課題もある。八千代座復興運動でもそうだが、各地で活躍する老人たちというのは、必ずしも多数派とは言いがたいし、その元気が次の世代に受け継がれていくとは限らない。いかにして老人たちの元気の共有と継承は可能なのか。これからも、老人たちの生き方の個別性や多様性を尊重しつつ、老人たちの元気の一般的な条件を探っていきたい。
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