研究概要 |
本年度(平成17年度)は、(1)国内外の文献を用いた理論研究と、(2)インタビュー調査を中心とした個別事例の検討を行った。 (1)福祉の援助関係における「保護」と「自律」のあり方の問題を、本年は、利用者の権利という観点から考察を加えてみた。その際、主に参考にしたのがマーサ・ミノウなどが論じている「権利を関係的に理解していく」という観点である(Martha Minow, Partners, Not Rivals : Privatization and the Public Good,2003等)。各自に共有され、各自がそれに規定される性質を「共同性(共同的関係性)」と呼ぶならば、そうした中でもなお残り続ける主体性・超越性の契機が「自律性(自律的関係性)」である。ただし、両契機が常に良好であるという保障はない。個の無力化を生むという点において自律性が奪われ、人間の分断化が進むという点において共同性が浸食される危険が常に現代社会にはある。両契機の関係性のありようを社会制度の問題として、また規範的に追求する意味がここにある。こうした観点は、福祉的援助の専門職であるソーシャルワーカーの役割を考える場合にとりわけ重要となろう。 (2)本年度は、8月と3月に、主として、地域福祉権利擁護事業でどのような援助実践が行われているのか、また施設現場での職員と利用者との関係性についてインタビュー調査を行った。利用者と援助者との関係は多様である。利用者は、まさに賢い消費者として能動的にかかわる場合もあるし、逆に援助者からのインテンシブな関わり方が求められる場合もある。ただしこのことは、どちらか一方の関係があれば良いということを意味しているわけではない。基本的には、関係性の現れ方の問題と考えるべきであり、局面の変化によっては、常に別の関わり方が求められる可能性がある。福祉の専門性とは、そうした変化への応答性の問題だとも言えよう。
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