本年度は、最終年度ということもあり、「福祉契約」と「保護と自律」ということをキーワードとして、これまでの研究をまとめる作業を行った。そしてその上で、そこであきらかになった諸点が、具体的な人々の生活場面でどのような意味をもってくるかとうい点について、「利用者本位」という文脈に即して検討を加えた。 (1)福祉契約について 福祉において契約というのは、あくまでも手段であり、契約それ自体が目的であるのではない。もっとも、福祉に契約化や消費者主義的アプローチが必要にされるに至ったのにはそれなりの理由があるのであり、その意味で契約化の積極面は正当に評価される必要がある。問題なのは、契約化や消費者主義的アプローチでは対応しきれない問題や、場合によってはより問題を深刻化させてしまう場合もあるということを認識しないことである。したがって求められているのは、そうしたアプローチを機能させるべき状況を見極めることである。 (2)保護と自律について 「選択の保障」というレベルで自律の問題(生き方・暮らし方の問題)が浮上してきている。注意すべきは、ここでは、どういう生き方が良いとか悪いということについて、社会が直接関与しようとしているわけではなく、問題にされているのは、あくまでも選択肢の保障だという点である。自律と両立する保護においては、基本的には、オートノミーとしての自立の条件整備ということを問題にしているのである。 (3)利用者本位について 「利用者の意向が支配する状況」が利用者本位であるならば、それをもって自律の保障と見なすことはとりあえず可能と言えそうである。しかし利用者が選択した事柄が、専門家の観点からすれば必ずしも適切ではないというのは珍しいことではない。こうした点において、まさに問題になるのがオートノミーとしての自立の条件整備として、保護の問題を考える視点なのである。
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