本研究は、知的障害者入所施設の脱施設化方策を、とくに長期利用者に視点をあてて明らかにすることを構想していた。しかし、研究開始直後から、厚生労働省により、障害者福祉制度の「グランドデザイン案」、障害者自立支援法が提起・施行され、障害者福祉制度、知的障害者入所施設制度、その脱施設化施策は抜本的に転換した。さらに知的障害者入所施設は制度転換に際して、依然として旧法の経過措置のままという状況で、研究機関の終期を迎えるにいたっている。 したがって本研究は、実際の方策研究は行うことができない状況となった。そのため、その前提となる(1)障害者自立支援法施策を検討し、(2)そのもとでの障害者入所施設制度および脱施設化の行政施策を検討することとした。それゆえ対象を長期利用者に限定することはしていない。 障害者自立支援法は、戦後ずっと続いた措置制度を抜本転換した支援費制度をわずか3年でさらに抜本転換するという、きわめて強引な政策的意図をもった法制定である。明らかに障害者福祉制度と介護保険制度との統合をねらっている。したがって障害者、障害者入所施設利用者、障害者入所施設関係者の実態や実績から出発した改革ではない。 それゆえに、脱施設化を目標の一つに掲げた同法の障害福祉計画も、精神障害者の医療から福祉サービスにサービス転換するだけのものが主たるもので、障害者入所施設利用者の脱施設化、地域生活移行は具体化されていない。むしろ障害程度区分による障害者入所施設利用対象からの除外認定で、利用者を家族のもとに追い出すねらいが強い。 こうしたもとで障害者入所施設現場は、経営の危機と利用者の今後が見通せないという混乱に陥っている。現状を守り維持することが重点にならざるを得ない状況といえる。脱施設化研究も、方策研究から、現実に立脚した制度論研究に立ち戻らなければならないであろう。
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