本研究では、状況的要因として対人的相互作用における場面と関係性に注目しつつ、時系列性・潜在性を有する動態的(ダイナミック)なアプローチを基盤とする、人と状況の相互作用研究を行い、新たな視点を有するアセスメントツールの開発をめざす。本年度は、マウス・パラダイムを用いた「状況選択」「状況評価」のコヒアランス(首尾一貫性)を測定しうる作業検査ツール(動態的文脈対応検査法と仮称する)の開発を主目的とする予備的検討を行った。具体的には、辞書的な状況分類を参考に、試行的に8つの場面(場所)を抽出し、マウス・パラダイムのプログラムを試作したうえで実験的研究を行った。1)単一焦点試行:コンピュータの画面中央に直径約1cmの赤の二重円が呈示され、その上に30ポイントのゴシック体で場面が表示された。被験者は、それらの場面を次々と経験しているようにイメージしながら、親しみを感じるならマウスのカーソルを中心に近づけ、感じないなら中心から遠ざけるように求められた。場面の呈示時間は5秒で、最後の2秒についてブリンクさせた後、次の刺激が呈示された。2)二重焦点試行:中点をはさんで左右に直径約1cmの二重円を赤で表示し、それぞれの円の上に場面を表す言葉を呈示した。被験者には、2つの場面を比較し、どちらにより親しみを感じるかによって適当だと判断する方向にカーソルを動かすこと、どちらにも親しみを感じられないなら双方からカーソルを遠ざけるよう教示した。呈示時間は5秒、ブリンク2秒とし、左右交互に刺激を変化させた。平行して、短縮版ビッグ・ファイブ尺度に回答を求め関連を検討した。データとして、カーソルの移動距離、次刺激呈示直前の座標、焦点からの距離、移動のスピード、移動距離の標準偏差、最大値、停留の長さ等の指標を算出した。単一焦点試行の結果は、測定結果の安定性を示したが、文脈的な影響は明確にならなかった。二重焦点試行の結果は、誘因が左右に移動する文脈では、誠実性や情緒安定性の高さが状況選択を慎重にさせる可能性を示した。また、系列ごとにみた焦点からの距離と性格評定の相関から、協調性の高い者が講義より雑踏、病院より図書館を好むこと、また、外向性の高い者は自宅より飲食店、図書館より雑踏を好むことなどが明らかになった。
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