本研究では、状況的要因として対人的相互作用における場面と関係性に注目しつつ、時系列性・潜在性を有する動態的(ダイナミック)なアプローチを基盤とする、人と状況の相互作用研究を行い、新たな視点を有するアセスメントツールの開発をめざしている。本年度は、パーソナリティおよび社会心理学領域における関連文献を収集し、相互作用論的アプローチに関する理論的精緻化を図るとともに、昨年度に引き続きマウス・パラダイムを用いた「状況選択」「状況評価」のコヒアランス(首尾一貫性)を測定しうる作業検査ツール(動態的文脈対応検査法と仮称する)の開発を主目的とする研究を行った。昨年度は場面と文脈を中心に検討を進めたが、本年度は関係性と文脈を中心に検討を進めた。具体的には、辞書的研究を基盤に抽出した8人の役割人物(自分、家族、同性友人、異性友人、先生、苦手、雇用者、初対面)について、2つの呈示系列を作成し、昨年度の報告に示した単一焦点型による実験パラダイムにより反応を求め、移動距離、移動速度等の行動指標を算出し、これとNEO-PI-Rにより測定した5因子性格特性との関連について検討を行った。その結果、場面と同様に、関係文脈刺激を用いても、被験者の行動指標には安定した個人差が認められた。また、家族・同性友人におけるポインタの移動距離と調和性、異性友人との距離と情緒安定性にそれぞれ負の相関が認められるなど、行動指標と性格特性の間に中程度の相関が認められ、マウス・パラダイムによる指標が、個人差を示す心的指標として妥当な意味を有することが示唆された。一方で、文脈による効果は、場面とともに関係刺激でも明確にならず、相互作用論的研究手法としての有効性は検証できなかった。現在、最終年度の研究に向けて、Windowsベースで稼働する、より汎用性の高いマウス・パラダイムのプログラムを開発中であり、このプログラムを使用して、認知レベル・動機レベルの個人差特質との関連について検討をすすめ、認知・感情システム理論に示されるボトム・アップ的なパーソナリティの理解の仕方にとって有益な研究手法とすべくツールとしての整備を行い、最終報告をまとめる予定である。
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