われわれは、意識するとしないとに関わらず、人間関係はこうあるべきだ、こうあるのが自然だという感覚をもっている。これらは各人が暗黙裡に所有する人間関係め理論であり、文化的な共通性をも持つ人間関係スキーマであり、社会化の重要な側面である。われわれは、親子関係に始まる多くの人間関係を通じて、自国・自文化の人間関係の規範やスキルを獲得し、自明のものとしている。この自明性が通用せず、自国文化での共通性や、異文化との差異を識るようになるのが、異文化に属する人々との対人葛藤である。 そこで、異文化間対人葛藤に直面することの多い外国人留学生を対象として、人間関係スキーマを調査することが有用であると考えられるが、当人にも意識化が困難な部分が少なくない。外国人留学生が暗黙裡に捉えている日本人および母国人の人間関係スキーマを、彼ら自身が感じている感覚に沿って詳細に分析するのに適するのが、筆者内藤によって開発されたPAC分析と呼ばれる個人別のイメージ測定技法である。これは、当該テーマに関する自由連想、連想項目間の類似度評定、類似度距離行列によるクラスター分析、被検者によるクラスター構造のイメージや解釈の報告、検査者による総合的解釈を通じて、個人ごとに態度やイメージの構造を分析する技法である。平成16年度の研究では、連想刺激の有効性を確認することが主要目的であり、(1)日本人との人問関係の葛藤やトラブル、(2)日本人の人間関係の特徴に関するイメージ、(3)母国の人間関係の特徴に関するイメージ、の3種のイメージ構造について、合計3回を個人別に分析した。まだ被検者数も少なく探索段階であるが、3つの連想刺激文はいずれも有効であり、中国人留学生によって、日本人の特徴としては、謙虚で自己主張や批判的発言を控え、距離を置く付き合い方、逆に中国人の特徴としては自己主張をきちんとするなどの差異を示す構造が得られた。
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