われわれは、人間関係はこうあるべきだ、こうあるのが自然だという感覚をもっている。これらは各人が暗黙裡に所有する人間関係の理論であり、対人行動を規定する人間関係スキーマである。そのかなりの部分は所属する社会で共有されており、社会化の重要な側面である。われわれは、親子関係に始まる多くの人間関係を通じて、自国・自文化での人間関係の規範やスキルをスキーマとして獲得し、自明のものとしている。自国の人間関係規範の独自性や、異文化との共通性に気づく機会となるのは、異文化に属する人々との対人葛藤によってである。 そこで、日本人との対人葛藤に直面することの多い外国人留学生を主要対象として、日本人の人間関係スキーマの特徴や異質性を調査することが、本研究の主要目的である。しかしながら、暗黙裏であるがゆえに、その構造について意識化することは困難である。外国人留学生が暗黙裡に捉えている日本人および母国人の人間関係スキーマとそれらの差異を、彼ら自身が感じている感覚に沿って詳細に分析するのに適するのが、筆者内藤によって開発された個人別のイメージ測定技法、PAC分析である。 平成17年度は、前年度に有効性が確認された連想刺激を用いて研究を継続した。日本人の特徴としては、中国人留学生によって、謙譲を美徳とする集団活動、その裏面に自己抑制と本音の隠蔽があり、表面と本音が違う人間関係の構造が出現した。また、台湾人留学によって、他人を気遣う伝統的な人間関係、心を開かず距離を置く関係の構造が得られた。タイ国に3年間滞在した日本人日本語教師によれば、タイ人の人間関係イメージに、日本人と同様の集団に埋没する人間関係の構造が見られたが、他方では、年長者を中心とした長幼の序と女性では身体接触をともなうなど親密な関係を示す構造が出現した。
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