われわれは、人間関係はこうあるべきだ、それが自然だという感覚をもっている。これらは各人が暗黙裡に所有する人間関係の理論であり、対人行動を規定する人間関係スキーマである。そのかなりの部分が所属する社会で共有されており、社会化の重要な側面である。われわれは、親子関係に始まる人間関係の実際を通じて、自国・自文化での人間関係の規範やスキルをスキーマとして獲得し、自明のものとしている。異文化に属する人々との葛藤は、自国の人間関係規範の独自性や異文化との共通性に気づかせる機会となる。 そこで、日本人との対人葛藤に直面することの多い外国人留学生を主要対象として、日本人の人間関係スキーマの特徴や異質性を調査することが、本研究の主要目的である。しかしながら、暗黙裡であるがゆえに、その構造について意識化するのは困難である。外国人留学生が暗黙裡に捉えている日本人および母国人の人間関係スキーマとそれらの差異を、彼ら自身の感覚に沿って詳細に分析するのに適するのが、筆者内藤によって開発された個人別のイメージ測定技法、PAC分析である。 平成18年度は、分析事例を追加していくことと国際学会で発表することが目的とされた。台湾留学生の日本人との葛藤の分析からは、「日本人との葛藤を解消するために目標とすべきこと」「逃げ出したくなる葛藤の原因や状態」の2つのクラスターが出現した。またオーストラリア滞在25年の日本人日本語教師が捉えているオーストラリア人の人間関係スキーマは、上下が対等であり、「他者尊重の受容的価値観」「おせっかいを恐れない親切の実践」「互いを(対等な由係で)助け合うメートシップ」の3つが出現した。また、17年度に日本心理学会大会で発表の、中国人留学生による日本人の人間関係スキーマをさらに吟味して、国際応用心理学会大会(アテネ)で発表した。
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