われわれは、意識するとしないとにかかわらず、人間関係はこうあるべきだ、それが自然だという感覚をもっている。これらは親子関係に始まる対人関係を通じて、自国の一員にふさわしい人間関係スキーマを獲得していることによる。社会で共有され、自明であるがゆえに、通常は気づかれない。ところが、文化を異にする他国の人々と出合い、葛藤を生じることで、自国の人々とその国の人々との人間関係スキーマの差異や共通性に気づくことになる。 そこで、外国人留学生を主要対象として、日本人と自国民の人間関係スキーマの特徴や異質性のイメージ調査をすることが、本研究の主要目的である。しかしながら、暗黙裡であるがゆえに、その構造まで意識化するのは困難である。外国人留学生が暗黙裡に捉えている構造を、彼ら自身の感覚に沿って詳細に分析するのには、筆者内藤によって開発されたPAC分析を用いた。 平成19年度は、「台湾留学生による母国の人間関係スキーマのPAC分析」「中国人留学生による日本人との対人葛藤のPAC分析」「日本人との対人葛藤に関するPAC分析:ミャンマーとベルギーからの留学生の事例」の3件について学会大会発表するとともに、オーストラリアのメルボルンのモナシュ大学とメルボルン大学で留学生の異文化適応について情報収集した。また、最後の年度であるので、ロシア、ベルギー、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、中国、台湾、韓国からの留学生の結果と、タイとオーストラリアでの日本人日本語教師の結果を合わせて、研究成果報告書を作成した。これらの結果から、日本人の集団(一致)主義傾向、自己抑制傾向、他者と距離を取る傾向、綿密性などが明らかとなった。
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