われわれは、意識するとしないとにかかわらず、「人間関係はこうなるはずだ、こうああるべきだ、それが自然だ」という感覚を持っている。これは、親子関係に始まる対人関係を通じて、その社会集団・国民にふさわしい人間関係の認知的行動基準(人間関係スキーマ)を獲得し、内面化していることによる。社会一般に共有され、自明であるがゆえに、通常は存在していることすら意識していない。ところが、文化を異にする他国の人と出会い、基準の違いに気づき、対人葛藤を感じることで、自国と他国の差異と共通性を意識化するようになる。しかしながら、たいていは暗黙裡に働く仕組みであるため、その構造や機制までを捉えることは困難である。 無意識あるいは潜在的に感じている暗黙裡の理論を探索し構造分析するに適した技法が、筆者内藤によって開発されたPAC分析である。外国人留学生に、(1)日本人との対人葛藤、(2)日本人の人間関係、(3)母国の人間関係の3つのテーマのそれぞれについて連想させ、それぞれに連想項目間の類似度を評定させ、クラメター分析し、クラスターのイメージについて聴取した。留学生の出身国は、ロシア、ベルギー、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、中国、台湾、韓国であった。各被検者は、対人葛藤の場面について連想し、クラスター構造を解釈し、ついで同様に、日本人の人間関係、母国の人間関係と続けた。対比の効果があり、日本と母国の人間関係の異同が明らかとなった。日本の特徴としては、自己抑制傾向(自身の情動、熱意、意見、主張、価値の表出や開示の抑制)が強く、没個性的・集団主義的で、規律・規則を重視し、序列意識があり、正直ではあるが固く、ユーモアに欠け、自己疎隔的で親密化を回避する傾向が指摘された。
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