クリティカルシンキング(以下、クリシン)志向性の尺度に関してその妥当性を確認する研究を行い、信頼性の高い尺度を構成した。また、大学新入生のクリシン志向性の入学後の変化について縦断的データを用いて分析し、日常でどの程度クリシンを経験しているのかという「クリシン経験」と大学進学や勉学に対する「動機づけ」との関連を見いだした。また、4月のクリシン志向性の高い学生ほど、考える力を刺激される授業があったと認知しており、さらに考える力を刺激される授業があったと認知した学生は7月のクリシン志向性を高めていることが明らかになった。さらに、入学後の3ヶ月間に「考える力を刺激された授業」があったと認知している学生の方が、そうでない学生よりもクリシン志向性を高めていたという結果は、大学教育において、新入生の段階からクリティカルに考える機会を与えることの重要性を示す結果として解釈された。 大学卒業直前の学生を対象にした調査により、大学生活経験に関する記憶とクリティカルシンキング志向性との関連が分析された。その結果、大学において「議論」を多く経験している学生ほどクリシン志向性が高いことなどが明らかになった。 一連の研究の最終段階として、クリシンの能力・スキルを測定する方法についての研究を進めた。具体的には、「考える力」や「問題を感じる力」を大学生がどのように認識し、それらがどのような経験によって獲得可能だと思うかについての自由記述データを質的・量的に分析した。またこの分析結果に基づいて、PA(Performance Assessment)的なクリシン能力の評価が可能になるいくつかのRubricを作成しようと試みた。ただし、現時点でRubricの確立までには至っておらず、被験者のクリティカルな思考のパフォーマンスを客観的に測定する手法の確立までには至っていない。
|