研究概要 |
質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis)(あるいは,ブール代数分析)は,米国の社会学者C.C.Ragin(1987)によって,主として国際比較や社会変動のメカニズムを考察するために考案された.質的比較分析は,元来電気技術者がスイッチ回路を単純化するために用いるブール代数を適用し,スイッチング論理や論理回路の分野で用いられている論理関数(論理式,論理回路)の簡略化を利用し,どのような条件が組み合わされたときに,どのような社会的現象が生じるのかというパターンを抽出しようとするものである.しかし,質的比較分析を心理学に適用する際に最も問題となるのは,ブール代数による論理関数の記述が,「真/偽」または「存在(あり)/欠如(なし)」を表す2値の論理変数と論理記号でなされることである.すなわち,人間の感情,意識,感じ方は「まあ,だいたいよいだろう」,「わりとよくできた」,…のようにあいまいであることが多いので,そのような心の動き,あるいは行動の結果を1,0の2値に変換することにそぐわないことが多いのである.そこで,人間の主観のあいまいさを定量化する手法であるファジィ理論により,質的比較分析を拡張したのが,ファジィ質的比較分析(Ragin,2000)であるが,ファジィ理論が文科系にとってなじみがないためか,ファジィ質的比較に言及した研究がほとんどないのが現状である.ところで,職業選択は人間の青年期における重要な発達課題のひとつであるにもかかわらず,最近のフリーターやニートという用語に代表されるように,若者の職業未決定が社会問題となっている.本研究では質的比較分析を用いて,意思決定の中でも職業意思決定の問題に焦点を当て,さらに隣国である韓国における大学生の職業意識と比較考察を試みた.日本,韓国ともに職業未決定の傾向が大学進学志望動機や職業選択動機に関連していることが示された.
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