上記研究課題は、(1)四国遍路の変遷、(2)健康心理学的意義の検討に分けることができる。このうち(2)については、平成13年以降四国を中心として調査を積み重ね、遍路を歩くことによる健康への効果について、既に学会、雑誌論文、単行本において公表を行った。一方、(1)のうち過去については平成14年より調査をスタートしたものの、資金不足のため調査は遅々として進まなかった。というのも、明治時代から昭和初期にかけて遍路を歩いた人が遍路宿に残していった納札を手がかりに、彼らのご子孫を探し出しインタビューを行うという手法をとっており、調査対象者が全国各地に散らばっていて多額の旅費がかかるためである。しかし平成16年度に科学研究費補助金の交付を受けて以来、調査が格段に進展した。補助金を受けるまでの平成14〜15年に熊本、岡山、兵庫で、補助金交付後の平成16年度は大分、福岡、広島、愛知、京都で、そして平成17年度は北海道(8月)、岩手(12月)、宮崎(3月)でお遍路さんの末裔探しを行った。さらに、国会図書館や関係団体において十分な下調べをしたうえで、旧外地であるサハリン(旧樺太)(8月)、および台湾(2月)にまで足を伸ばし、昔のお遍路さんの足跡を辿ることができた。余談だが科学研究費補助金以外の費用(本務校の研究費や自費)により、和歌山(9月)、三重(10月)でも調査を実施し、ご子孫にインタビューを行った。 インフォーマントは、昭和初期前後にお遍路を歩いた人の2代、3代後の方々であった。納札には詳しい住所は書かれておらず、またこ子孫の名前も不明なため、直接現地に赴いて情報収集しながら探すしかなく、アポイントメントなしで突然訪問したのだが、どの家でも親切に応対してくださり、ご子孫の口をとおして昔のお遍路さんの生前の人柄、生活、人生などについて語っていただいたほか、彼らの写真や遍路を歩いたときの納経帳、白衣まで見せていただくことができた。 以上のように、科学研究費補助金を受けることにより平成17年度も順調に調査が進んだ。平成18年度も同様の方法で新潟、島根、そして四国などにおいて調査を行う予定である。 なお、上記のような研究の進行上、平成17年度はデータの収集および整理に力を注いだため学会での発表(第70回日本民族衛生学会総会講演集、112-113頁)以外、本格的な論文執筆には至らなかった。今年度は週末等を使ってできるだけ早い時期に調査を終了したい。そして平成14年以降蓄積してきたデータをもとに、昔のお遍路さんがどんな動機で、どのような思いで遍路を歩いたのか、また昔のお遍路さんの生活や人生において遍路がどのような意味をもっていたのか考察を行い、個人のライフストーリーを通して遍路の変遷について論文を執筆する予定である。データは膨大な量にのぼるため、成果は最終的には単行本の形でまとめたいと考えている。
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