本研究のテーマである遍路研究は平成13年(2001年)4月に着手しており、報告書には、科学研究費補助金を受ける以前に収集したデータも用いた。報告書は大きく3つの内容から成る。第1章〜第7章では現代の遍路者に焦点をあてた。遍路前、遍路中、遍路直後、そして遍路の1〜3年後に実施した参与観察やインタビューで得られたデータにより、遍路の世界をエスノグラフィによって著した。また、こうしたエスノグラフィにもとづき、遍路の意義をヘルスケア効果の観点から検討するとともに、現代の遍路者の体験過程、およびその背景要因について検討を行った。 第8章では、遍路者にお接待を行う側に焦点をあて、接待者にとっての遍路の意義について検討を行った。第9章、第10章では、明治時代から昭和時代における遍路者に焦点をあてた。ここで研究の材料として用いたのは、愛媛県喜多郡内子町において遍路宿を営み、宿をたたんだ後は民家として使用されていた建物に保管されていた納札である。これらの納札は、明治から昭和にかけて遍路を歩いた遍路者が残していったものである。そのうちの一部、千枚余りを複写し、記載内容から当時の遍路の実態について検討を行った。さらに納札に書かれた住所や氏名をもとに、かつて遍路を歩いた人物の子孫を訪ね歩き、当該人物の生前の生活や人生、遍路との関わり等についてインタビューを行い、いわば子孫の口を借りて明治時代から昭和時代における遍路者像を探った。
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