研究概要 |
本研究では,幼児が親およびきょうだいとの親子三者間相互行為のなかで,どのような発話行為をおこないそれがどの程度理解され応答されるのか,また,親にどの程度発話を向けられるのかを探索的に検討することを目的とした。家庭におけるおもちゃを介した社会的相互作用の観察をおこない、VTRに記録した。30か月時では、父親および母親の対象児への発話数やその発話形式を比較するとともに,対象児の会話への参入ときょうだい間の発話形式の生起頻度を調べた。その結果,父親参加時と母親参加時における子どもの行為にも,両親の2人の子どもへの発話行為にも差異が示された。母親は対象児に優先的に発話を向け,質問,要求,記述が多く発したほか,対象児ときょうだいとの間の質問と応答の頻度も高かった。父親は対象児の質問や要求に対する応答の比率が低いが,対象児が自発的に会話に参入しようとずる頻度は高く,父親に対して文節の長い発話を向けていた。この結果は,両親の質の異なることばかけや応答を含む発話スタイルが,幼児の言語の多様なスタイルを習得する機会を提供していることを示唆していた。とくに,父親との相互行為で求められ訓練されるのは,家庭の外の世界の他者とのコミュニケーションにおいても機能しうる会話スキルであり,これが子どもの社会化を促進すると考えられる。42か月時では、子どもはより質問および陳述の発話をおこなっていた。きょうだいの発話は、30か月時と比較すると対象児に向けられるよりも母親に対して向けられ、より親をはさんで子どもが競合的な発話を示すようになっていた。以上のことから、家族の共同行為のなかで家族はそれぞれの時点で、対象児が習得すべきスキルの学習・訓練に必要な言語環境を提供しており、そこで幼児は必要なコミュニケーションスタイルを獲得することが示唆された。
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