本研究は、認知、特に注意の社会化・文化化に着目し、発達・文化間比較的実証研究を行い、文化と心の変化と一貫性、継続性と非継続性、多様性と普遍性について、検討することである。本研究で取り上げる注意方略とは、注意の焦点化方略と注意の分散化方略である。「注意の焦点化方略」とは、分析的知覚と対応し、周囲に存在する刺激の中でも最も注意を引くもの(対象)に注目し、そこから得た手がかりをもとにして仮説演繹的に対象の心的表象を構築するプロセスをいう。そこでは対象以外の刺激(コンテクスト)はしばしば無視される。この傾向は、特に欧米において優位であると仮定される。これに対して、「注意の分散化方略」とは、包括的知覚と対応し、対象とともにコンテクストにも広く注意を向け、様々な手がかりを両者からサンプルし、それらの全体的布置と最もよく合致する心的表象を記憶から検索するプロセスをいう。この傾向は、特に東洋において優位であると仮定される。この注意の社会化過程について、この注意の社会化過程について、「文化的な注意方略は、発達の早期、だいたい4-6歳頃に、異なった社会化過程を通して獲得される」こと、また「いったん獲得されたこの注意方略は、極めて安定性の高いものであり、変化しにくいものである」という仮説を検証することを試みた。第一の仮説では、幼児から小学生と成人とに遂行可能なFLT課題の開発を行ったが、縦断的に妥当な測度を決定することが困難であることがわかった。そこで、文化内差、文化間差を検証するためのtriangulation(3点比較法)を用いて、発達的比較文化的視点からの検討をおこなった。注意課題であるFLT課題と他の文化的測度(個人的動機付け課題、社会的パターン課題、自尊心を測定し、FLT課題との関連をみた。その結果、personal motivational課題とFLT課題においてアメリカ人はドイツ人よりもindependentな結果を示し、ドイツ人は日本人よりもindependentな傾向をしめした。しかしながら、原因帰属と社会的強化においてはドイツとアメリカの間に差は見いだされず、日本とは有意な差がみられた。興味深い点は、それぞれの文化内において、尺度間の相関は見いだされなかった。
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