研究概要 |
対人情報に関わる認知的枠組みの変容過程において、刺激人物と自己とを相対化する視点の導入が認知的葛藤を統合的に解消する効果を規定するかどうか、実験的に検証した。実験対象者(有効回答者)は日本福祉大学学生69名(男56名、女13名)、平均年齢21.2歳(SD0.84)であった。印象形成課題の刺激語は吉原(1991,2000)で使用したものと同様に5対の両極形容語を含む11語とした。まず対人情報の刺激語群を実験対象者に提示し、両極形容語を相反する特徴をもつものとして認知することを確認するため刺激語群を2人分に分類させ、予定していた語を含む人物についてのみ1回目の印象形成記述を行った。次に実験対象者と同性で同大学に通うある人物が自分のことをあらわす特徴として選んだとする形容語群を提示した。この刺激語群は上記11語のうち一人物として典型的に選択されやすい語群から成り、ここに不斉合情報が含まれるように刺激語を設定した。次に刺激人物と自己とを相対化する視点を導入する実験群は、刺激人物と自己との比較を行ない、自己と刺激人物の評価をSD尺度(10項目7件法)で行い、その後2回目の印象形成の記述を行った。一方統制群は刺激人物との比較を行わずに印象形成の記述を行った。さらに刺激人物に対して感じた親密さの程度を測定し(5件法)デブリーフィングの後実験を終了した。実験の結果、実験群・統制群の不斉合情報処理様式(吉原,1991)の度数を比較したところ、有意な偏りは見られなかった。一方、印象形成後の自己評価のうち、「重い-軽い」、「深い-浅い」というパーソナリティの奥行きに関わるSD尺度において実験群のほうがより「重く」、より「深い」という評価差が見られる傾向があり、さらに刺激人物評価においては「不安定な-安定した」という項目において実験群の分散が有意に大きく、また、より「安定した」という評価が高くなる傾向が見られた。以上から、自他を相対化する視点の導入により、認知的葛藤の解消に関わる間接的な効果が示唆され、さらに印象形成の内容を詳細に比較検討することなど、今後の展開課題が明らかになった。
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