ネットワーク通信(TCP/IP規格)を利用してパーソナル・コンピュータを介した二者間のコミュニケーション場面を設定し、パートナーと自己とを相対化させる操作を実験プログラム(HSP言語使用)により行い、統制群との比較において相対化操作が態度変容に及ぼす効果を検討する実験を行った。実験対象者は男女大学生、大学院生、大学職員計30名であった。実験手続きは吉原(2003)に準じた。実験対象者を同性でペアとし、ネットワークでつないだパソコンに着席させ、両者匿名の状態で画面教示に従って実験を進行させた。まず一般的態度についての測定を行い、両者の意見の類似性認知を統制する操作を行った。次に相対化操作として半数の実験参加者にはパートナーと自己を比較すること、他の参加ペアと自らのペアを比較すること、そして第三者として両者の力量を比較することを通して、自己とパートナーとを相対的にとらえる視点を導入した。次に1つのテーマについて意見の測定を行い、意見内容に関する自由記述の情報交換を行った。これを3セット繰り返し、最後に自尊感情の測定および実験概要の説明を行った。パートナーとの意見のズレを、反対方向をマイナス換算して従属変数とし、相対化操作を被験者間要因、意見測定の回数を被験者内要因とする二元配置分散分析を行った。その結果いずれの主効果、交互作用も見られず、相対化の視点を導入することによる態度変容への効果は見られなかった。しかし、実験対象者数が少ないこと、相対化群が3回の意見測定を通して意見のズレがより小さい傾向にあることは、コミュニケーションの目標設定を必要条件として加える必要性を示唆している。さらにパートナーと同方向へ意見が変化する割合が高い一方、葛藤水準が高いほどパートナーの態度と逆方向への意見変化量が有意に大きいことも、同様にコミュニケーションの目標設定の重要性を示唆しているといえよう。
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