社会的文脈における認知的枠組みの変容過程を明らかにするため、これまでの研究成果をもとに二者間のコミュニケーション過程に焦点を当て、1つのトピックに対して意見を交換する(あるいは合意形成を行う)実験を行った。本年度は、二者間の相対性の視点の導入(2水準:有無)と一般的態度の類似性の操作(2水準:高低)に加え、二者間の相互依存関係(2水準:合意強化・非強化)をも操作し、さらに葛藤水準(3水準:高低無)を含めた4要因被験者間計画により、不協和情報への処理過程上の差異を検討する実験を行った。実験は学内ネットワークを利用し、実験プログラム(データベースソフトAccess使用)によりコンピュ-タを介した匿名二者間(同性)のコミュニケーション場面を設定し、各回集団で一斉に実施した(有効回答N=96)。各測定値および逐次コミュニケーション内容はすべてファイル上に記録された。コミュニケーション終了後の最終的な各被験者の態度に対する確信度を従属変数とする4元配置分散分析を行った結果、類似性と相互依存関係との間に有意な交互作用が認められた。コミュニケーションを行う両者の一般的態度が類似している場合には、互いの意見を一致させることを強く求められることにより、最終的には自分の意見に対する確信度を低下させることが明らかになった。記録されたコミュニケーション内容からは、このような状況下において意見が分かれた場合には、両者の意見が平行線をたどる傾向が強いことが示された。相手の言い分に耳を傾ける一方で自説を曲げるにも至らず自己の意見に対する自信が弱まっていることが示唆された。また類似性と相対化の間にも有意な交互作用が見られ、一般的態度の類似性が高い場合には、両者を相対化する視点を導入することにより最終的な態度に対する確信度が低下するのに対して、類似性が低い場合には相対化する視点の導入が確信度を上昇させることが示された。以上の実験はさらに、チャットなどの匿名・非対面状況でのコミュニケーションの実態を理解する上でも重要な示唆を与えている。
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