研究概要 |
本年度は、研究開始の初年度であり、主として文献の収集と関係者に対するヒアリングを行った。定年退職期における夫婦関係見直しの必要性は、1980年頃より、主に家族社会学の分野から指摘されている。そこでは高齢者の適応という視点から、高齢期夫婦の結婚満足度とこれに関連する諸要因との関係が検討されてきた。また、高齢期夫婦の心理的適応に必要なのは社会的な要因だけでなく、夫婦の安定性や配偶者との関係性が重要であることも指摘されている(宇都宮,2004)。本研究ではそれらをふまえ、夫婦の歴史と現在の関係性に焦点を置きつつ、定年という一つのライフイベントを通しての夫婦関係について研究を行う。 本年度は、調査対象となる、ある任意団体を対象に、ヒアリングを行った。この団体は、都内に活動の拠点を持ち、商工会議所を背景としてシニアの交流や社会参加、社会貢献を自的とした活動を行っている。中心は定年退職後、なお高い意欲と活動性を持ち続けるメンバーであり、会員数は全国に500名を超え、メールを利用して活発な活動を展開している。個人情報保護法の施行に伴って、現在、調査内容・方法の見直しを行っている最中である。 本年度はまた、これまでの研究で得た結果を今後の研究に向けて再分析した。40〜65歳の女性665名(49.31±3.7歳)に行った調査から、1年以内に自分の定年退職・夫の定年退職を経験した者を選び出し、それ以外の者との比較を行った。その結果、(1)自分あるいは夫の退職を経験した群の夫に対するストレス認知は、経験しなかった群に比べて高い、(2)自分の退職を経験した群は、していない群に比べてうつ傾向と孤独感が高かったが、夫の退職を経験した群には、適応尺度に違いは見られなかった。(3)夫が家庭において自立していないと妻が認知している場合、夫の退職を経験した群のストレスは高かった。結果は、日本心理学会第69回大会にて報告する予定である。
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