本研究では、中高年世代を対象とした質問紙調査を行い、さらに対象者の一部に対して面接調査または継続調査を行った。質問紙調査は2006年2月〜3月にかけて郵送で実施し、268名から回答を得た。男性の平均年齢は64.0(±6.6)歳、女性の平均年齢は60.8(±6.4)歳であり、男性の約6割は定年退職を体験していた。また、その中で夫婦の確認がとれたのは104組の208名であった。主な結果は、以下の通りである。 (1)自分および配偶者の定年退職の有無による適応状態の差は見られなかった。(2)夫婦の就業状況別に適応を検討した結果、夫婦とも無職あるいは仕事を持つ群では妻の抑うつ度が高く、片方が仕事を持つ群では夫の抑うつ度が高い傾向が見られた。とくに妻のみが働いている場合は夫の抑うつ度が高く、夫が退職状況に適応していない可能性が示唆された。(3)家庭内の役割への貢献度については、夫婦とも妻が多くを担っていると評価していたが、「程度」にはずれが見られた。夫婦とも、配偶者の貢献度を配偶者自身が評価するより低く評価する傾向が見られた。(4)家庭内役割に関する夫婦の認識のずれが大きい場合、妻の孤独感は高く、親密性よりも利便性や惰性、体裁によって結婚生活を継続していると感じている傾向が示された。(5)質問紙における自由記述、夫婦の人生曲線の比較、面接調査等では、妻側の葛藤やあきらめに対して、夫側には第三者的で楽観的な態度が示された。 こうした夫婦の認識のずれに気付くことが、子どもが成長した後の夫婦関係にとって重要である。
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