研究概要 |
近年,基本的な計算能力の習得が重視されるようになってきたが,その過程に関しては,十分に明らかにされていないことが多い。そこで,本研究では,計算時における指の利用に着目し,インフォーマル算数の習得過程を,構成主義や状況的学習論の観点から探索的に検討した。5歳児20名に,2+1,3+6というような一桁の足し算の答えを尋ね,回答するまでの子どもの行動を観察した。その際,数字のカード,半具体物としてドットカード,具体物としてオハジキ,の3種類の提示方法を用いた。あわせて,足し算を他者へ説明する際の指の動きを観察した。 その結果,足し算をしている時に自発的に指を利用していた子どもは約4%であり,指を積極的に使うように教示していた先行研究に比べて,少ない割合であった。それに対し,目で追う,じっと見るなど,計算時に目を利用しているとみられる子どもは約37%であり,その傾向は、ドットカードを提示したときに顕著であった。また,計算の仕方を説明させる課題では、約10%の幼児が指を利用して説明し,目の動きだけで説明した子どもは約3%であった。また,計算時と説明時での身体的な動きの違いとして,計算時ではドットを提示したときに多くの身体的な動き(特に目の動き)が多く現れるのに対して,説明時では数字カードを提示したときに指の動きが多く現れる傾向があった。これらの結果から,就学前の子どもにおいては,指は他者に説明するのに利用されても,自分の認知的処理の道具としては利用されにくいことが示唆された。以上の知見が身体性認知の観点から論じられた。
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