本研究の目的は、教師の怒りが児童生徒の不適応行動にどのような影響を及ぼしているかについて分析することである。そこで、まず、教師の怒り水準を客観的に測定できるようにするために、「教師版怒り尺度」の開発に着手した。調査対象者は、小学校、中学校教師併せて1000名である。郵送法による調査の結果、最終的に、小学校教師392名(男性141名、女性251名、回収率=74.4%)、中学校教師257名(男性136名、女性121名、回収率=51.4%)、計649名の有効回答を得た。調査項目は、小学校、中学校教師各々50名ずつを対象にして行った教師の怒り経験に関する自由記述調査によって収集された30項目(共通項目-20項目、小・中学校別項目-10項目)を用いた。なお、回答方法は、それぞれの場面に遭遇した時に腹の立つことがあるかどうかによって、「全くない」から「よくある」という4件法で答える形式とした。小学校、中学校教師別に、項目分析及び主因子法・プロマックス回転による因子分析を行ったところ、小学校、中学校教師とも、教師の怒り経験は、「子供の言動」、「同僚・保護者との人間関係」、「仕事の多忙さ」という3つの因子で説明できることがわかった。尺度の信頼性についてはクロンバックのα係数及び折半法信頼性係数によって、妥当性については検証的因子分析によるGFI及びAGFIの値によって検討したが、いずれにおいても満足のいく値を得たことから、小学校教師版、中学校教師版とも十分な信頼性、妥当性が備わっていることが確認された。なお、教師の怒り得点は、単純にそれぞれの因子を構成している項目の得点を加算する方式で算出することにした。その結果、性差については、小学校においては、一般に女性教師の方が男性教師よりも1%水準で有意に怒り得点の高い傾向が認められたが、中学校では男女に差は見られなかった。一方、年齢差については、小学校では見られなかったが、中学校では、30歳代以上の教師の方が、20歳代の教師に比べて1%水準で有意に怒り得点の高い傾向が認められた。そこで、次に、教師の怒り経験について、デンマークと日本の現状を比較検討するために、前述の「教師版怒り尺度」のうち小、中学校共通の20項目を用いて、「国際版教師怒り尺度」を開発したが、項目数を減らしても信頼性、妥当性は損なわれないことが判明した。 一方、児童生徒の不適応行動の変化を測定できるようにするために、30項目から成る「児童生徒版不適応行動尺度」の開発も行った。そして、教師の怒り得点及び怒り行動に基づいて抽出された6クラスにおいて、本研究において開発した「児童生徒版不適応行動尺度」を実施し、担任教師の怒り水準及び怒り行動が児童生徒の不適応行動に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。
|