本研究の目的は、教師の怒りが児童生徒の不適応行動に及ぼす影響について分析することであった。そこで、まず、日本の公立小学校及び中学校に勤務している教師(小学校教師392名、中学校教師257名)を対象にして、教師の怒り水準を客観的に測定できる「怒り尺度」及び怒り喚起場面における教師の対処行動を測定できる「怒り対処尺度」を開発した。そして、それらの尺度を用いて、教師の怒り原因は「児童生徒の言動」、「仕事の多忙さ」、「同僚・保護者の言動」という3つの因子で説明できること、怒り水準の高い教師ほど心身の健康状態が良くないこと、怒り水準が上昇すればするほど児童生徒や家族に対する攻撃行動が起こりやすくなることなどについて明らかにした。次に、日本の教師649名、デンマークの教師222名を対象にして、「国際版教師怒り尺度」及び「国際版教師怒り対処尺度」を開発した。そして、それらの尺度及びQ-Uを用いて、日本の教師の怒り水準はデンマークの教師の怒り水準に比べて有意に高いこと、日本の教師は怒り感情をより内に抑える傾向が強いのに対しデンマークの教師は外に発散する傾向が強いことなどについて明らかにした。最後に、日本の中学校6クラスの生徒197名を対象にして、「非行傾向」、「うつ傾向」、「キレやすさ傾向」、「友人不信傾向」、「疲労傾向」という5つの下位尺度、計20項目から成る「不適応傾向予測診断尺度」を開発し、その尺度を用いて、担任教師の怒りが生徒の不適応行動にどのような影響を及ぼすかについて、1学期間、クラスごとに3回、同じ調査を実施することにより、生徒の不適応傾向の変化について時系列的に分析した。その結果、担任の怒り水準が相対的に高いということが怒り対処行動様式の違いに関わらず、生徒の不適応行動傾向を高める大きな要因になっていることがわかった。また、怒り感情を内に抑える傾向の強い担任教師のクラスの生徒は時間が経つにつれて担任不信感や学級不満足感を抱きやすくなるのに対して、外に発散する傾向の強い担任教師のクラスでは逆にいじめ等が頻発する恐れが強いので注意が必要である。今後も、児童生徒の発達段階の視野から、さらに詳細に教師の怒りが児童生徒の不適応行動に及ぼす影響について分析していきたいと考えている。
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