個人の自己は物語形式で保持されているとする自己物語の心理学の立場から、本年度は、物語としての自己を捉える面接手法としての自己物語法の方法論を精緻化することを目的として、事例データの収集および個々の事例データに関する個人の自己物語の文脈の抽出という観点からの分析を行った。 すなわち、面接によって本人の自己のアイデンティティを質的に捉えるとともに、質問紙においても量的に捉えることを試み、両者を照らし合わせることで、自己物語法の確立に向けてのヒントを得ることを主要な目的とした調査研究を行った。 事例データの収集は、2ヶ所の老人保健施設において、約50名の調査協力者の高齢者に対して、自己物語法による半構造化面接をそれぞれ計4回にわたって継続的に行った。面接は、老人保健施設において、1対1の場面で行われた。聴取内容は、人生の各時期の想起される主要なエピソードと意味づけ、人生の各時期の評価とその根拠となるエピソード、自己のアイデンティティにより直接的に言及する質問内容などであった。 計4回の個人面接に加え、第1回目および第4回目においては、個人のアイデンティティに関する量的データとして、人生への態度尺度、過去への態度尺度、自尊感情尺度およびアイデンティティ尺度を実施した。 このようにして得られた個人のアイデンティティに関する質的および量的データをもとに、自己物語法による自己のとらえ方についての理論的検討を行った。
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