本研究は、個人の自己を自伝的記憶に基づく物語形式で捉え、「物語としての自己」という視点からアイデンティティを捉える面接手法である自己物語法の確立を目的とするものである。本年度は、老年期に加え、青年期、中年期の人々に対しても面接調査を行い、人生の物語を貫く自己物語の文脈を抽出する分析を行った。また、青年および成人に関しては、質問紙調査も並行して行い、アイデンティティを量的にも捉えようとした。それぞれの年代についての調査内容は以下の通りであった。 1.老年の自己物語の抽出 関東地方の軽費老人ホーム入居者に対して、自己物語法による半構造化面接を、継続的に計4回行った。面接は高齢者の居室で主に行われた。聴取内容は、個人のアイデンティティに影響を与えた重要な他者や出来事等を尋ねるものであった。 2.青年の自己物語の抽出 中部地方の大学生を対象に、自己物語法による半構造化面接を、継続的に計4回行った。聴取内容は、青年期のアイデンティティを形成する際に影響を与えた出来事等のテーマに関するものであった。また、初回(第1回)と最終回(第4回)において質問紙調査により量的データを収集した。 3.成人の自己物語の抽出 中部地方在住の成人を対象に、青年に対する調査と同様の手続きで、半構造化面接および質問紙調査を行い、質的データと量的データを収集した。 本研究は、これらの調査で得られた質的データと量的データを分析して比較検討し、自己物語法によって自己のアイデンティティを捉えることの有効性と限界について検証したものである。
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