研究概要 |
研究1 向社会性についての認知の発達的検討I -横断的調査- 向社会的行動の学習過程であり,自己認知が質的に変化するとされている5歳から9歳の5つの年齢群を対象に,価値観と効力感を検討し,向社会性についての認知の発達的差異を検討した。調査は,向社会性についての認知評定(幼児・児童用),向社会的行動評定(教師用)を行なった。向社会性についての認知に関しては,各評定項目(10項目)に対して,価値観と効力感に関する2つの質問を行った。その結果,(1)男児は女児よりも,9歳児は5歳から8歳児よりも価値観得点・効力感得点が低いことが示された。さらに,(2)価値観と効力感の関連による4つの認知タイプ(両側面の得点が平均的なAA型・両側面の得点が低いLL型・両側面の得点が高いHH型・価値観が高く効力感が低いHL型)の分布には発達的差異があること,(3)児童期中期(8・9歳)になって認知タイプと向社会的行動との間に関連がみられることが示された。HH型(8・9歳児),あるいはHL型(9歳児)の向社会的行動得点が他のタイプよりも高い。以上のような結果から,5歳児から9歳児にかけて向社会性についての認知は質的に変化し,価値観・効力感がより自律的・客観的になっていくことが示唆された。 研究2 向社会性についての認知の発達的検討II -縦断的調査 1年目- -幼児期における向社会性についての認知と向社会的行動との関連 (1) 幼児期・児童期の向社会性についての認知に関する縦断的調査の1年目は,集団生活の中で仲間関係を築き始める3歳児,幼児期から児童期への移行段階である5歳児を対象児とした。調査は,向社会性についての認知評定,向社会的行動評定(行動観察)を行った。その結果,(1)援助と被援助の関係から,向社会的行動を媒介とした4つの仲間関係のタイプ(互恵型,援助型,被援助型,個人型)が示され,(2)互恵型・援助型の比率は5歳児が,被援助型・個人型の比率は3歳児が高くなった。また,(3)互恵型の幼児は,他の仲間タイプに比べて価値観が高く,効力感が低い傾向にあった。以上のような結果から,思いやりを媒介とした仲間関係は,発達的に,受身的なものから能動的なものへ,さらに互恵的なものへと変化し,援助する・援助されるという経験を通して価値観が高まるとともに,価値観と効力感が分化することが示唆された。
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