研究概要 |
昨年に引き続き,H16年度3歳児を対象,向社会性についての認知と行動との関連に関して縦断調査(3年目)を行なった。調査項目は,向社会性についての認知評定(価値観・効力感),仲間関係評定,向社会的行動評定(行動観察・教師評定)であり,H16年度〜H18年度の3年間のデータをまとめ横断的・縦断的分析を行った。 1 発達的変容を検討した結果,向社会性についての認知(価値観・効力感)には年齢差が見られなかった。一方,遊び場面での向社会的行動に関しては年齢差がみられ,困窮場面遭遇および介入は3歳から4歳にかけて急激に増加し,遊び場面での援助回数・被援助回数が多くなることが示された。 2 3歳,4歳,5歳と年度ごとに,向社会性についての認知と向社会的行動との関連を横断的に検討した結果,3歳では認知と行動との間に関連が見られなかった。しかし,4歳では,価値観の効力感とのずれ(差異得点)と被援助回数に負の相関関係があり,価値観と効力感が分化している子どもほど,友だちから援助を受ける回数が少ないことが示された。また,行動面では,援助と被援助に負の相関関係があり,援助を行う回数が多い子ほど,援助をうける回数が少ないというように,4歳では,援助する側の子ども,援助される側の子どもに2分される傾向が示された。5歳では,価値観と効力感のずれ(差異得点)と,介入(総計)・自発的介入,被援助回数との間に正の相関関係が見られ,価値観と効力感が分化しているほど,困窮場面への自発的介入が多く,仲間からも援助を受ける回数が多いという結果となった。5歳時点では,互恵的な仲間関係が形成されており,これと,向社会性についての認知が関連していることが示された。 3 3歳から5歳にかけて,向社会性についての認知と向社会的行動との関連を縦断的に検討した結果,(1)3歳から4歳にかけては,価値観・効力感に相関関係があるが,4歳から5歳にかけては相関関係が見られなくなった。また,(2)3歳で価値観が高かった子どもは,4歳で困窮場面に自発的介入する回数が多くなること,3歳で被援助回数が多い子どもは,4歳になると困窮場面で依頼による介入が多く,援助回数が多いことが示された。さらに,(3)4歳で効力感が高かった子どもは,5歳になると困窮場面への介入が多いこと,4歳で友だちからの援助が多かった子どもは,5歳では価値観・効力感が高くなることが示された。 以上の結果から,向社会性についての認知は,4歳から5歳にかけて分化し質的に変容すること,向社会性についての認知と向社会的行動との関連とその発達は,3歳時点での認知が5歳時点での向社会的行動に影響を与える,3歳・4歳時点の行動が5歳児点での認知に影響を与える,といった2つのタイプがあることが示唆される。
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