研究概要 |
本研究では,向社会性についての認知を価値観と効力感から捉え,これら両面と向社会的行動との関連を検討した。その結果,向社会性についての認知は,年齢によって変容し,認知から行動,行動から認知といったフィードバック・ループを経て,その機能が異なってくることが示された。 まず,幼児期には,4歳から5歳にかけて向社会性についての認知が変容し,遊び場面で仲間を援助する,仲間から援助されるといった経験によって,価値観と効力感が分化する。そして,5歳では価値観が向社会的行動出現過程の行動判断の動機づけに関与するようになる。一方,3歳から4歳にかけては価値観・効力感は個人内で維持されており,3歳での価値観,4歳の価値観と効力感が,次年度の困窮場面での行動へ関与している。以上の結果から,幼児期における向社会的行動の発達は,向社会性についての認知から困窮場面での行動へ,被援助経験から向社会性についての認知といった2つの過程があり,前者は入園前後の家庭での社会化を基盤とする過程,後者は仲間における社会化を基盤とする過程であることが示唆された。 児童期では,年齢によって価値観と効力感のバランスによる認知タイプの分布が異なり,向社会性についての認知に変容がみられる。6歳で価値観と効力感の両面が高いタイプの比率が多く,その後7・8歳にかけてこのタイプが減少し,9歳では最も少なくなる。一方で,価値観も効力感も低いタイプの比率が9歳で最も高くなる。また,向社会的行動の出現過程においては,7歳では価値観から困窮状況の気づきへの関与が,9歳では価値観・効力感の両面から行動判断の際の動機づけへの関与がみられる。以上の結果から,児童期では,価値観の重視する傾向から価値観に合致した効力感が高まる段階(5歳から6歳),価値観・効力感がステレオタイプ的・自己受容的な傾向から,自律的で客観的になっていく段階(6歳から9歳)の2つの段階を経て,向社会性についての認知の機能が変容することが示唆された。
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