研究概要 |
統合失調症患者の認知障害の潜在的学習可能性を検討することを第1の目的とした。つぎに、認知リハビリテーションの開発とその効果の実証的検討のために、認知機能課題施行時の脳機能状態を調べることを目指している。このために、第2の目的として、まず、近赤外線分光法により、健常者で認知機能課題施時の脳機能状態をみた。第3は、詳細に脳機能状態を調べることが可能な機能的脳磁気共鳴画像(fMRI)を用いて、その方法的妥当性を確立してゆくことであった。 平成16年度の潜在学習可能性の検討と近赤外線分光法による課題賦活の検討に基づき、認知リハビリテーションを行った。対象は説明と同意の得られた統合失調症患者(ICD-10で統合失調症と診断された患者)で、急性期の患者ではなく、比較的、症状が安定している患者とした。事前に、神経心理学的アセスメントを行い、神経心理学的プロフィールを加味して選択した。これまで選ばれた対象患者7名に対して、週1回、1セッションで3ヶ月間、認知リハビリテーションを実施した。この際、維持療法としての薬物療法が併用されていた。認知リハビリテーションは、日常場面におけるスクリプトを用いた社会的知識の組織化の障害の改善を目指した訓練および注意機能の改善を目指した自動車の運転演習課題により構成された。その後、3ヶ月間維持療法としての薬物療法のみでフォローした。認知リハビリテーションによる介入前と介入直後、および維持療法による3ヶ月フォローにおいて、神経心理学的検査と臨床症状評価をおこなった。さらに、近赤外線分光法により、介入前、介入後およびフォロー3ヵ月後の脳機能状態を検討した。結果、社会的認知課題(Script),実行機能,および言語機能の各指標に有意な改善が認められ,さらに、それらの効果はその後の3ヶ月のフォーローアップ時にも維持されていた。付随して,陽性症状評価尺度の一部に有意な軽減が認められ、認知リハビリテーションの効果が示唆された。また、近赤外線分光法による検討では、統合失調症の脳内機能の過活動が認知リハビリテーションにより、落ち着いた脳機能状態になることが示唆された。さらに、次年度は脳機能状態の精査を行なう予定である。
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