研究代表者は平成11年より重複聴覚障害者を対象とする首都圏の重度身体障害者入所授産施設(通所併設)からの要請に応え、その入所者を対象として心理的援助を継続してきた。心理的援助の対象とされるのは、施設での問題行動がある入所者、もしくは統合失調症、鬱病などの診断を受け、必要に応じて精神科医の治療を受けつつ心理面でのサポートを必要とする入所者である。一方、さまざまな要因(養育環境、教育歴、修復する障害の程度、千差万別のコミュニケーション能力、集団での適応度など)が輻湊しているため、日常生活の援助に際し、関わりの端緒をどう見出せばよいか難しい入所者も多く、こうした入所者への対応をも行ってきた。 聴覚障害社の知的・身体的・社会的能力を総合的にはかるアセスメント・ツールは、需用はありながらも、国内、国外共になく、これまで既存の知能検査・発達検査・質問紙などをアレンジして利用するに止まってきた。しかし、その結果は本人の能力を正しく反映しているとは言い難い。重複聴覚障害者の能力が過小評価され、本来の能力が十分発揮できない場合、逆に過大評価され能力以上のことを求められる場合が少なからず看取される。何れも、当人への心理的負荷は大きく、その結果、問題行動や症状として発現する契機ともなりうることを経験してきた。より効果的な援助方針を立てるに際し、重複聴覚障害者個々人の能力を総合的に査定することは重要であるが、聴覚障害者のためのアセスメント・ツールはこれまでなかった。 本研究では、聴覚障害者のアセスメント・ツールの開発を目指した。関与的行動観察、非言語的表現による種々の精神所産、家族やその他関係者からの資料をもとに、簡便であるが、精度が高く、援助場面に適用しやすいアセスメント・ツールを試作し、その有効性はかなり高いことが臨床実践を通した検討の結果、明らかとなった。
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