虐待の疑いのある子どもに対してインタビューを行う場合には、その被誘導性が大きな障害になる。子どもたちは質問者に迎合的に答えがちなのである。たとえば、「お父さんがあなたをたたいたの?」という質問に対して、実際にはそのような事実がなくても肯定的な返答をしてしまうことがある。このような誘導された回答は、事実認定を歪ませるだけでなく、えん罪を作り出す危険性もある。そのため、このインタビューをいかに行っていくかはこの問題を扱う、児童相談所、病院、学校、警察などの司法・行政機関にとっては、非常に重要な問題である。しかし、近年まで、子どもを誘導しない1で質問していくための技法についての科学的な研究はほとんど、行われていなかった。そこで、本研究では、この問題について検討した。本研究で、とくに注目しているのは、子どもにあらかじめ何らかのトレーニングを行い、それによって後続する質問フェイズにおいて、たとえ、誘導的な質問が行われたとしても、子ども自身が、その誘導質問に耐えて、正確な回答を行っていくことができないのか、という方法論である。前年度までの研究において、質問に先立って4問の事実に反する誘導質問をあらかじめ、子どもに行い、わざとひっかからせて、それを指摘するという「4問法」トレーニングが効果的であることが示された。本年度は、この方法と、質問前にあらかじめ質問される対象の出来事についての絵を描かせるという「描画法」トレーニングの効果について、実験的・理論的に検討し、さらに行政的、司法的な観点から両方法の利点欠点を比較対照した。その結果、総合的に見て「4問法」が優れていることがわかった。したがって、今後、虐待を巡る司法・行政的な手続きにおいては、子どもへのインタビューに先立って、この「4問法」を適用していくことが有用なのではないかという結論が示された。
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