研究概要 |
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、1987年にShapiroによって発見された心理療法である。EMDRはPTSDや恐怖症、不安障害などに有効な心理療法として注目されている。EMDRの治療効果は口頭報告による主観的な評価が用いられることが多く、客観的な評価が求められている。本研究では、1)EMDRの効果を精神生理学的な指標である事象関連脳電位(ERP)を用いて明らかにすること、2)外傷体験が短期記憶として保持されている場合と、長期記憶として保持されている場合とでEMDRの治療効果が異なるのかを検討することを目的とした。 1、EMDRによって不快な記憶が脱感作されるかを、認知情報処理の過程を直接反映するといわれているP3の振幅や潜時を指標として用いて検討した。その結果、EMDRにより、P3振幅が有意に低下し、SUDS値も低下したことから、P3がEMDRの治療効果を評価する客観的指標であることを明らかにした。 2、外傷体験が2年以内(短期記憶)、2年以上(長期記憶)の場合を変数として、EMDRの効果発現に差があるのかについて検討した。その結果、短期記億に対するEMDRの効果発現については、両側性刺激の呈示によって脱感作され、不快刺激に関するP3振幅は低下し,SUDS値も低下した。また、長期記憶に対するEMDRの効果発現については、両側性刺激の呈示により不快刺激に対するP3振幅は減少し、EMDR施行後のSUDSの値は施行前の値よりも低下した。以上のことから、外傷体験が短期記憶として保持されている場合においても、長期記憶として保持されている場合においてもEMDRの治療効果が発現することが明らかとなった。
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