研究概要 |
視覚情報処理におけるパターン認知の研究は、主に輝度分布パターンを対象として行われてきたが、実際には外界の物体は色やテクスチャなど様々な表面属性をもっており、その不連続によって物体の輪郭が知覚される場合も多々ある。本研究はこのように様々な表面属性の不連続からなるパターンの知覚について調べることを目的とする。 本年度の研究では、輝度あるいは色定義の部分と運動定義の部分からなるパターンの知覚が特異的に困難であること(Morita et al.,2003)を再確認し、それが細かい空間周波数成分に依存する性質ではなく、中程度の空間周波数フィルターの一般的な性質と考えられることを示した[実験1]。また、単に静止している部分と運動している部分を組み合わせることによりこのような性質が生じるのではなく、あくまで定義属性の組み合わせにより生じていることを示した[実験2]。更に、輝度あるいは色定義の傾きと運動定義の傾きの表現が独立に探索されるとした本研究と、輝度あるいは色定義の傾きと運動定義の傾きの間に相互作用を認めた先行研究(Cavanagh,1989;Poom,2000)との違いについて、処理のレベルが関係している可能性を示唆する結果を得た。すなわち、本研究は並列探索可能か否かを調べることにより、比較的初期レベルでの共通表現の存在を検討しているのに対して、先行研究では注意のもとでの比較的後期の処理過程の特性も含んだ結果を得ている。そこで[実験3]において、注意のもとで傾き弁別を行った結果は、先行研究同様輝度あるいは色定義の部分と運動定義の部分からなるパターンの知覚に特異性は認められなかった。 以上の実験結果をまとめると、本年度の研究から、定義属性の組み合わせによっては初期の並列的なパターン認識メカニズムが働かないが、その場合には後期の比較的柔軟なメカニズムによって対応しているというモデルが提案される。
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