視覚情報処理におけるパターン知覚の研究は主に輝度分布パターンを対象として行われてきたが、実際には外界の物体は色やテクスチャなど様々な表面属性をもっており、その不連続によって物体の輪郭が知覚される場合も多々ある。このように様々な表面属性の不連続からなるパターンの知覚について調べた。 Moritaら(2003)は輝度あるいは色定義の部分からなるパターンや運動定義の部分どうしからなるパターンの傾き探索が容易であるのに対し、輝度あるいは色定義の部分と運動定義の部分からなるパターンの傾き探索が非常に困難であることを報告した。本研究はこの性質が刺激の空間周波数特性に依存しないこと、単なる静止した部分と運動情報を含む部分からなるパターンでは見られないこと、単一の傾き弁別を行う場合にはこのような定義属性の組み合わせによる特異性が見られないことを示した。以上の結果から、輝度あるいは色定義の部分からなるパターンや運動定義の部分どうしからなるパターンの傾き処理は視覚情報処理の比較的初期段階で並列的になされるのに対し、輝度あるいは色定義の部分と運動定義の部分からなるパターンの傾き処理はより後の段階において注意の基で行われるとするモデルを提案した。 続いて、輝度、色、テクスチャなどの「何」の知覚に関する処理経路における形表現と運動や両眼視差などの「どこ」の知覚に関する処理経路における形表現の独立性について検討するため、特定の属性定義のアイテムの傾き探索に他の属性定義のアイテムの存在が及ぼす影響を調べた。その結果、輝度定義の傾き探索に対しテクスチャ定義の傾きの存在が影響を及ぼすが、運動定義の傾きの存在は影響を及ぼさないことなどが明らかになった。 以上の研究から、視覚の初期段階における処理経路依存の傾き処理と後期段階における柔軟な傾き処理という多段階の傾き処理過程の存在およびそれらの性質の違いが示唆された。
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