近年、哺乳類の新生児は母胎内で味覚・嗅覚刺激を記憶し学習する能力をすでに発達させていることが明らかになった。そして、その能力に基づいて新生児は母親へと接近する。一方、ほとんど行われてこなかった父親研究においても、新生児はこの能力に基づいて接近するのではないかと考えられる。従って、本研究では出生直後の新生児が母乳及び母親へ示す選好をマウスを用いて検討し、母親への愛着形成の開始メカニズムを明らかにすることを第1の目的とした。第2の目的は、これまで検討されてこなかった子から父親への愛着形成の開始メカニズムを新生児を用いて検討し、母親と父親への愛着形成の差異を明らかにすることであった。 一連の実験は、親の持つ刺激特性を分離して組み合わせていく実験(実験1〜5)と、親そのものを刺激として用いる実験(実験6)からなり、実験1と2では、母親の体毛・羊水・初乳が帝王切開された胎児に及ぼす効果をさまざまな観点から検討した。実験3と4では、父親の体毛と羊水の効果を、実験5では父親の体毛と初乳の効果を、帝王切開胎児と新生児を用いて検討した。さらに、実験6では、父親と母親に対する新生児の選好の差異を検討した。 これらの実験結果、帝王切開胎児の行動は先ず母親の体毛による周口部刺激によって活性化され、次に羊水がそのレベルを高めること、その後羊水と母乳の対提示によって連合学習が成立し、それが母親への愛着形成につながることが明らかになった。一方、父親に対する愛着形成は、父親の体毛刺激を基本とし、母乳が対提示されると高まること、新生児は父親へもある程度の愛着を示すことが明らかとなった。これらのことは、連合学習による父子関係の形成を示唆するものである。
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