本年度の研究目的は、言語産出過程を支えるタイミング制御機構を探るために、Saito & Baddeley(2004)によって開発されたスピーチエラー誘導法を改良することであった。先行研究で用いられている実験方法では、被験者は1秒に1回の速度で、繰り返しターゲット語を発話することが求められ、数回目の発話の直前(500ms前)に、ターゲット語と音韻的に類似した干渉語を提示すると、被験者の発話に音韻的なエラーが生起することが知られていた。しかしこの手続きでは、干渉語を発話の750ミリ秒前に提示すると、その干渉語は、被験者の直前の発話と重なってしまい、干渉語の効果を打ち消してしまう可能性があった。この問題を克服するためには、発話を一回限りとし、その発話の直前に干渉語を提示するような実験手続きを用いることが必要である。本研究では、1回限りの発話でスピーチ・エラーを誘導できるような実験手続きを開発した。実験1と2では、まず従来の方法を用いて、統制された材料で十分な数のスピーチエラーが得られることを確認した。さらに、語頭が入れ替わるように誘導された刺激では、ほとんどエラーが生起しないが、第2音と第3音、あるいは第3音と第4音、第2音と第4音が入れ替わるように誘導された刺激では多くのエラーが生起することが発見された。続く実験3では、視覚的に発話タイミングを指示し、その1回限りの発話の直前(500ms前)に干渉語を提示するという手続きを用いて、エラーの誘導率を調べた。その結果、実験1で得られたエラーのパターンがこの手続きによっても再現され、実験的エラー誘導法によるエラー生起は、繰り返しの発話によるものではないことが確認された。
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