研究概要 |
本年度の研究目的は,作動記憶におけるタイミング制御機構の役割を検討することであった.この目的のために3つの実験を実施した.まず,視覚提示の数字系列再生課題における時間的グルーピング効果を追試した.この効果は,ランダムな順序で提示される9つの数字系列を覚える課題において,数字を3つずつ,時間的にグループ化して提示した場合(グループ提示条件),9つの数字をすべて一定のテンポで提示する場合(一定提示条件)よりも,その再生成績が向上するという効果であり,時間的文脈を利用する作動記憶の働きを反映していると考えられている.続いて,時間的グルーピングとタッピング課題を組み合わせた実験をおこなった.数字の提示条件には,グルーピング提示条件と一定提示条件があり,手指によるタッピングには,グループ提示条件の数字提示と同じタイミングでタッピングするグループタッピング条件と,一定のテンポでタッピングを行う一定タッピング条件があった.タッピングは数字の提示期間中に並行して実行されたが,提示条件とタッピング条件の組み合わせから,数字の提示タイミングと被験者が行うタッピングのタイミングが一致する条件と不一致となる条件が存在することになる.実験の結果,タイミングが不一致の場合に一致の場合と比べて再生成績が低下すること,また,時間的グルーピングの効果は,一定タッピング条件においては消失することが確認され,時間的グルーピング効果の背景には,自己生成されたタイミングが利用されていることが明らかとなった.
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