研究概要 |
動物はどのようにして経過時間を評価しているのであろうか?本研究ではラットにおける時間認知研究で多く用いられているピーク法を用いて,時間弁別行動の反応ピークを形成する行動パターンと脳内電気活動の対応を検討した。ラットの時間弁別学習を研究するために,オペラントのピーク法(Peak Interval procedure:PI)を用いることは非常によい方法である。ピーク法では,動物は刺激の提示から一定の経過時間後にレバー押し反応をするように訓練される。たとえばPI30秒スケジュールでは,刺激提示後から30秒後のレバー押し反応に対して強化される。今年度はPI30秒スケジュールを用いて,ラットに30秒の時間を計るように50日間,毎日訓練をした。 結果は,ラットのレバー押し反応は30秒に向かって増加していき,強化設定時間である30秒を超えると反応は減少した。レバー押しの反応分布は30秒を頂点とするガウス分布を示した。その後,ラットは脳波計測のための電極埋め込み手術を受けた。回復後,課題遂行中のラットの脳波を同時測定した。2匹のラットで線条体領域と海馬領域の脳波パワーが行動パターンとよく相関した変動を示した。海馬領域からの海馬θ波パワーはその指標として使用された。これらの結果は線条体と海馬の同調が脳内のタイミング取りの機構にとって重要であることを示唆する。 時間知覚の脳内メカニズムを探るためにラットで時間知覚の実験的データを得ることの意義は大きい。数秒から数分程度の時間知覚においてその理論的背景として情報処理モデルが提案されており,時計部,記憶部,決定部と脳内機構を3つに分けたものが考えられている。今回の結果は特にレバー押し反応と線条体が関係していることを示唆するものであった。脳波パワーの分析から脳内の時間知覚メカニズムに一歩近づく結果が得られたことは今後の発展が望めるものである。
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