本研究課題では、リスト指示忘却と呼ばれるパラダイムを用いて、言語材料の情動性と二重課題のそれぞれが意識的な検索抑制に及ぼす効果について検討することを目的としている。そこで、本年度はまず、すでに確立されている(記憶負荷のない場合の)単語の抑制効果(すなわちリスト指示忘却効果)の知見を実験的に確認した。 まず、ニュートラル単語32語(食事、訪問など)と、ネガティブ単語32語(戦争、手術など)を選定する作業を行った。次に、材料の情動性(ニュートラル材料、ネガティブ材料)を被験者内要因とし、群(記銘群、忘却群)を被験者間要因とした実験計画のもと、リスト指示忘却効果の知見を検討した。記銘群24名、忘却群24名には、最初に記銘教示を与え、1語ずつ視覚提示される第1リスト(16語)の記銘の終了直後に、記銘群には記銘続行教示を与え、忘却群には(第1リストの)忘却教示を与えた。こうして、引き続き第2リストを学習した後に、記銘群、忘却群ともに、第1リスト、第2リストすべての単語の再生を求める書記再生(5分間)と、再認テスト(5分間)を求めた。その結果、材料の情動性とは無関係に、従来の研究と同様のリスト指示忘却効果として、(1)第1リストは記銘群より忘却群の再生成績の方が悪い、(2)第2リストは忘却群よりも(第1リストからの順向干渉を受けた)記銘群の再生成績の方が悪い、(3)再認テストでは第1リスト、第2リストともに両群の間に再認成績の違いが認められない、という結果が得られた。
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