研究概要 |
ゴーグル式ビデオモニタを着用し,正常視映像と1秒遅延映像,それに左右反転映像という3条件で,書字行動と左右往復描画行動を課する実験を行った.毎秒30枚で画像解析を行い,描出された点の座標データを算出した.この画像解析には多大の時間を要するため,現時点で分析が終了している1名の書字行動の結果概要を記す. 書字は,「autumn」の筆記体と「語」という漢字であった.それぞれ,見本の文字をなぞる条件と,白紙上に書き出すことを求めた.ペン先にはライトがついており,透明の机上面に置かれた紙を通して,机の下からビデオ撮影した.軌跡は紙面に残らない.「autumn」の「見本なぞり」課題は,正常視では10秒程度だったものが,左右反転視は約40秒,1秒遅延では90秒程度を要した.「見本なし」課題では,正常視で10秒程度だったものが,左右反転視は22秒,1秒遅延は17秒であった.見本をなぞる行動は,空間的変換視である左右反転視条件よりも,時間的変換視である1秒遅延条件の方が圧倒的に長かった.それに対し,「見本なし」で自発的に書字する条件では,それほど時間はかからず,特に1秒遅延の方が短かった.また,特徴的だったことは,1秒遅延の「見本なぞり」では,見本文字より大きな文字を描くことであった.すなわち,この条件では,オーバーシュートが顕著であった.その他,正常視条件を基準点に,左右反転視と1秒遅延視条件には,対照的な結果が多く見られた. また,時間的変換視条件下での書字が,半側空間無視患者の書字パターンと共通するとの見解を検討する一環として,研究協力者であり、言語療法士である高岩亜輝子氏へのインタビューを行った。行動に現れた症状から脳内の損傷を推定する技法を客観的に記述する作業を、来年度の課題として進めていきたい。
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