研究概要 |
昨年度に健常者に対して行った時間的遅延フィードバック条件下と左右反転視条件下での書字・描画パターンと比較するため、本年度は、半側空間無視の急性期症状を脱した患者さんに対し、書字・描画行動を行ってもらい、動作解析装置を用いて、毎秒30コマの精度での時空間パターンの分析を行った。その結果、半側空間無視症状がほぼ消失した回復期では、もはや顕著な書字・描画障害は認められなかったが、以下のようなライトペンを用いた条件下で、特徴的な描画結果が得られた。ライトペンを用いた場合には、鉛筆の場合とは異なり、書字・描画の軌跡が作業者にフィードバックされない。そのため、作業者のワーキング・メモリには、すでに描いた軌跡を記憶しておく負荷がかかる。「二重円を描いて下さい」との指示に対し、2周の円の描画を終えた地点で作業を終了せず、半周程度行きすぎるまで描画を続けた。また、見本を見ながら直方体の線画を模写する課題では、辺同士の接続がうまく描けず、およそ直方体とは見なせない稚拙な描出を行った。症状の改善により、軌跡の残る作業では、ほぼ描画障害が消失しているにもかかわらず、記憶負荷を与えた課題では、顕著な特徴が認められた。 また本年度は、小学生が逆さめがねの世界をどのようなものと受けとめるかを、「オノマトペ」を用いて表現してもらう実験を行った。広島市江波山気象館での逆さめがね体験の企画展で実施した。「オノマトペ」を用いたのは、小学生、特に低学年の子どもたちから、逆さめがね着用をどのような体験と受けとめたかを引き出すのに適した方法と考えたからであった。結果は、研究協力者である関口洋美との共著論文(吉村・関口,2007)にまとめた。逆さめがねを着用して諸動作を行うと、知覚面の混乱より行動面での混乱が大きいこと、「オノマトペ」表現によるデータ収集法の可能性について有意義な知見が得られた。
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