研究課題
基盤研究(C)
逆さめがねを作成する方法には、プリズムなど光学的に視方向を変換する方法以外に、ビデオカメラを用いて電子的に変換する方法がある。本研究では、後者の方法を開発し、視方向を変換する以外に、視野像に時間的遅延を与えることも実現した。被験者は、ヘッド・マウント・ディスプレイを介して、変換された視野像を見ながら、書字・描画作業を課された。そして、課題遂行中のペン先の動きがビデオ記録され、毎秒30コマのサンプリングタイムで、時空間分析された。健常者においては、1秒遅延する視覚情報に導かれた書字行動において、オーバーランが顕著に出現したが、漢字書字では、すでに獲得している手の運動感覚に基づいて遂行するため、視覚に導かれた書字とならず、オーバーランは認められなかった。残念ながら、研究仮説として設定した、遅延フィードバック条件で、余分な点や線など付加するという遂行パターンは示さなかった。回復期にある半側空間無視患者に対して行った、書字・描画課題(正常視条件でのみ行った)においては、次のような特徴がみられた。たとえば二重円を描く課題で、鉛筆での図形描画では2周を書き終えたところで課題を終えたが、軌跡がフィードバックされないライトペンでの描画では、3周目にかなり進んでから描画を終えるという付加的描画を行った。立方体の線画見本を模写する描画課題では、軌跡がフィードバックされない条件での遂行で、さらに顕著な図形の崩れが認められた。今後、鉛筆での描画など、軌跡が残る方式ではなく、軌跡がフィードバックされない条件下での遂行を課すことにより、軽微な障害を敏感に検出できる可能性が示唆された。
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